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Session-22 書き起こし

料理中などにTBSラジオpodcastをながら聞きしているのだが、先日のSession 22に出演されていた中邑(なかむら)先生という方の話が素晴らしかった!保存期間が終わらないうちに覚え書きにチャレンジ。

学習障害の子どもをテクノロジーで支援!タブレット端末活用の最前線』

中邑 賢龍 | 東京大学 先端科学技術研究センター

ー研究分野が人間支援工学だが。
専門心理学なんですけど、テクノロジーを活用して人を救っていこうと。話を聞いてあげるよりもモノを使った方が簡単な場合もある。この35年間テクノロジーを使いながら人を支援すると人はどう変わっていくかということを研究している。

ー一般的には寄り添ってじっくり話を聞きましょうみたいなイメージがあるけれど。
モノやお金で解決する方が簡単な場合があると思っている。

ー最近はどんな活動を。
DO-ITという活動を約10年している。学習に困難がある子どもたちにPCにタブレットを与えて、それで読み書きや受験をするよう促している。多くの大学や高校はそれを認めておらず、それで進学を断念する子どもたちが多かった。受験はできるのに鉛筆が持てないから落とされるというのはあまりにも悲しい。僕たちが君たちがそれを使う合理性をきちんと証明するから、という活動。また学習困難と不登校には強い結びつきがある。この問題もテクノロジーを使うとずいぶん改善できると思っている。

学習障害というと学習するのが難しいというイメージがあるが、今の学校というパッケージでは学習が困難であるという意味であると。
そう。実際に口で問うときちんと答えられるが試験ができない子もいる。読みに問題があるとか書く速度が遅いとか。

ー今までは甘えとか努力不足と言語化されていたが、適切にサポートしてあげるのが新しい大人の役割として注目されている。
読み書きの訓練に集中する間にどんどん他の勉強が進んでいく。学習の遅れが生まれていくのが一番大きな問題であると認識している。それだけで自信を失い勉強嫌いになるという悪循環をどこかで止めなければならない。今の彼らに対するアプローチは治療教育的が主流。頑張れば多少は良くなるから周りは頑張ることを期待するが、実際にはなかなかうまくいかない。それが彼らの認知特性。そこで学習の遅れを拡大するよりは、テクノロジーを利用して学習にはついていけるようにすればいい。

ー昔は学習障害という言葉はなかったが。
昔も今も同じような子はいたが、産業構造が変化してきた。今の日本は第一次産業の割合が5%を切っている。多くの人は7割を超えるサービス産業で働かればならないが、コミュニケーションや読み書きが求められる分野のためにうまく適応できない人が出てくる。世の中の産業形態の変化によって高学歴化が進んでいる。現代社会の中で顕現化してきた、環境に大きく依存する問題ともいえる。そこに発達障害学習障害というラベリングが行われ、治療の対象となり研究されだした。これは人間の認知のばらつきの問題であって、時代が時代であれば特性として見過ごされてきたもの。そこに過度な訓練を強いていくというのは当事者たちにストレスを与えると思っている。現代は便利なツールが手に入るわけだから、これを彼らの能力の一部に組み込んでいけばいいのではないか。

ー発達の特性を知ったうえで療育する活動も重要だが、特性を矯正するのではなく特性を持ったまま学習ができるように変えてやるということ。
PCやタブレットが学校に入るというと、効率よく知的反射神経を鍛える方向に使おうとしてきたが、苦手なものを補うツールとして使っていくということが簡単にできるようになってきた。障害のある子どもたちだけのために重要ということではなく、我々みんな記憶が苦手など特性は持っていて、スマホ等を活用しながら生活しているはず。それを学校で学ぶ子どもたちにも導入したらどうかと提案しているが、極端な考えだ、努力して学ぶことが重要だという議論もある。しかし、苦手なことに時間を費やすよりも得意なことに費やした方が子どものためにもなる。それは決して安易なことではないと思う。

ー努力はしてナンボという考え方が根強いが、実践を通じてどんな効果があるのかを証明していくのが研究者の仕事ということ。
そう。実際紙の試験だと成績が上がらない子どもがタブレットを導入してぐんと成績が上がる。それだけで子どもたちの学びの姿勢は変わってくる。

ー他の支援事例は。
計算な苦手な子どもが電卓を使うと成績が上がることがある。子どもが試験で悪い成績をとってきても、よく見てみると立式はできていたりする。あるいは国語の試験ではお母さんなら読めるのにバツになっているというところには「お母さんマル」をつけてあげて下さいと言っている。そうすると学校の先生の厳密な基準ではダメだけど、あなたは実はこれだけ分かっているということを評価してあげられる。こうすると難しい知能検査などしなくても自分の子どもがどこでつまずいているかが分かる。そうするといとも簡単に代替の手立てが見えてくる。

ー通常視覚に障害があれば眼鏡をかけることは普通。学習障害は見えにくいので、楽したいだけだろうとか精神論が介入しがちでないか。
障害のとらえ方だと思う。眼科では裸眼視力は問題にしない。眼科医の言う視力とは矯正視力。知能に関していうとみんな裸の知能しか考えていない。眼鏡がこれだけ一般化したことによって矯正視力を誰もが認めるようになったのと同じように、タブレット等が一般化していくと我々が示す知能というのは矯正知能というものになっていくのではないか。我々の能力感とか障害感というのは大きく変わってくるかもしれない。現代は教育関係者以外の我々の能力感は機器の利用を前提したものに近いのではないかと思っている。
ー確かに社会で仕事をしていく上では「暗算したら間違えました」と言ったら「電卓使え」、「自分で考えました」「せめてググれ」という風に怒られますよね。

ー最後に、学習の特性に合わせた様々な工夫をしていくことの重要さというのはこれからどのように議論されていくべきだと感じますか。
学びの多様化というのはこれから積極的に図っていく必要がある。読み書きに困難がある子どもたちだけでなく、勉強ができすぎる子どもたちも不適応を起こしている実態もある。いろんな子どもたちが通常教育の中からはみ出ている現状を打破していかなければならない。それを先生たちにだけ頑張りなさいというのも酷。新しい学びのチャンネルをたくさん作っていく必要があると思う。

 
言葉を選びながら丁寧に話している語り口が印象的だった。スロー再生でばばっと打ったのでかなり省略済。同じくゲストの佐藤里美さんのトークとリスナーからの質問の部分は飛ばした。

 

冬ソング特集で紹介されていた『What A Wonderful World』The Innocence Mission